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2012年英国の旅(中)~クリケットと「がん」投稿日 2013.8.17

旅行者
若林朋子
旅行先
ロンドン
旅行期間
2012.08.19~2012.08.25
テーマ
③DSC_0186
  • クリケットと「がん」
  • 野球の原型と言われるスポーツ
  • インド版『巨人の星』を思い出す
  • ハイテク設備のプレスセンター
  • バットの形は「ヘラ」のよう
  • 「マギーズ・センター」を訪問
  • ポップな色調が悲壮感を和らげ

2012年夏、英国・ゴダルミングでホームスティする前後、私はロンドンに計10日間ほど滞在しました。7月下旬は街中が五輪開幕直前の熱気ムンムン、8月中旬は五輪の余韻さめやらぬ中、秋の気配を感じながらの街歩きとなりました。

思い出深いロンドン五輪、大英博物館など「観光の目玉」については次回へ。観光コースを外れ、少々勇気を持って足を踏み入れたプロスポーツ及び医療の現場で感じたことをお話ししたいと思います。

 

スポーツを愛してやまない私は、ロンドン周辺とエリアは限定されますが、可能な限り英国ならではのスポーツに触れてみたいと思いました。

サッカー・プレミアムリーグ関係のいろんな施設やラグビー博物館など、いろいろと食指が動きました。そんな中、「日本に帰ってしまってはなかなか見ることはできないもので、日本における大相撲みたいなスポーツって何だろう」と考え、クリケットのスタジアムに足を運ぶことにしました。

クリケットは英国の国民的スポーツです。ホームスティしていたゴダルミングでも、日曜日の午前中に芝生広場で少年がプレーしている姿をたびたび見かけました。博物館ではアフリカ遠征の選抜メンバーの誇らしげな記念写真が展示されていたことも。プレーヤーが白いユニホームを着用することを義務付けられている点は、ウインブルドンにおけるテニスと同じです。英国人のスポーツマインドの原点を知ることができるかもしれません。クリケットは野球の原型といわれており、何より競技として成立していく過程に興味がわきました。

 

 

ロンドンの中心部にあるMCC Cricket Museumでは「見学ツアー」が開催されており、喜び勇んで参加しました。ゲームをしていない日に、スタジアムの中をガイドと一緒に移動し、ミュージアムを見学できるのです。素晴らしい体験でした。

 

集合場所に到着すると、「なんで東洋人がここにいるんだ?」という視線を受けました。参加者は半分が英国人、残りはインド系の英国人かインドからの観光客と見受けられます。インドでクリケットは人気スポーツなのです。「確かインド版のアニメ『巨人の星』はクリケットでプロを目指す少年の話だったなあ」と思い出しました。

インドからの来訪者は、メジャーのイチローみたいな、クリケットのスター選手となった母国のスタープレーヤーの功績を見たいのでしょう。その気持ち、よくわかります。

誤解がないようにお話すると、私が東洋人だったために差別的に見られたわけではありません。その表情から読み取るに、「クリケットについて分かっているのかな?」「我々の話題についてこられるの?」と心配していただいている感じです。無理もありません。おそらくここは、日本人にとって長嶋茂雄や王貞治のバットが並んでいるような場所なのでしょう。

スタジアムの中に入って息をのみました。ピッチは目にも鮮やかな美しいグリーンの芝です。英国の王室関係者らが座る古めかしい貴賓席、未来都市を思わせるハイテク設備のプレスセンター、一般観客向けのスタンドと、それぞれの観客席から見える景色はまったく違うものだと感じました。三者三様の観戦の仕方があるのです。なかでも、貴賓席、一般席とは別格の高さにあるプレス席に座り、心が震えました。数々の名勝負を見続けてきた名物記者になった気分です。英国人の「クリケット愛」がじんわりと伝わってきました。

 

サブグラウンドに目を映すと、プロ選手が練習をしていました。当たり前ですが、ゴダルミングの芝生広場で見た少年クリケットとはレベルが違いました。一見して投打のスピードが「プロ級」であると分かりますし、あるプレーについて繰り返し、巻き返し動きを確認する様子から集中力の高まりを感じました。一流選手だけが醸し出す、オーラを感じ取ることができました。

クリケットは野球の起源となったといわれます。ホテルに帰ってからネットでいろいろ調べてみると、ボールをバットで打ち、走るという流れは野球と同じですが、バットの形は円筒形でなく、「ヘラ」のよう。野球では打つ方が攻撃している感覚ですが、クリケットは逆だそうです。日本にも競技団体があり、普及に努めている方も少なくないようでした。「帰ったら日本でもクリケットを見てみたい。できればやってみたい」と思いました。

スポーツについて語ると、自分の体温が上がっていくのが分かります。好きなんですよね。「英国のプロスポーツの本場を見たんだよ!」。撮影したたくさんの写真を眺め、帰国したら語りたい人の顔が何人か思い浮かべました。その中には野球関係者もいます。英国ではクリケットがクリケットのまま続けられ、米国ではメジャー・リーグ・ベースボールに進化したということ、ぜひ野球関係者と一緒に考えてみたいですね。

ロンドンでクリケット・ミュージアムと同様、特別な思いを抱いて私が訪ねたのは、がん患者の精神的なケアや相談窓口の役割を担う「マギーズ・センター」でした。

 

マギーズ・センターは、観光客には無縁のシリアスな場所です。しかし、外観は明るいオレンジで、親しみやすい雰囲気でした。しかも、ロンドンのマギーズ・センターでは、異国からの見学者がアポイントを取らずに訪問して、足を踏み入れることを許されたのです。医療関係者以外にはなかなか足を運ぶ方はいない施設ですが、紹介しておきましょう。がん治療などの重いテーマとは無縁な方でも、「人が集う場」とはどうあるべきかを知ることができる施設です。

英国には現在、14か所のマギーズ・センターがあります。すべてが世界的に著名な建築家のデザインであり、日本人の黒川紀章さんが手掛けた建物もあります。色、形などが独特の建築物は、「利用なさる方々を大切に思い、そして人々にとって意味のある場所」ことを示し、「安らぎがあり、安心できる場所」というメッセージを伝えています。

ロンドンのマギーズ・センターはオレンジ色のユニークな建物でした。殺風景な総合病院の横にあるので、とても目を引きます。インテリアや相談カード、患者向けの冊子や掲示物はすべてポップな色合いで統一され、一見すると幼稚園か児童施設のようです。カウンセラーの女性は急な訪問にもかかわらず、「好きなだけここにいていいし、何でも聞いてOK」と温かく迎え入れてくださいました。

数名の患者が訪ねてきてスタッフとあれこれと話し合い、ミーティングが始まりました。センターの周囲には、ポツンとベンチに座る患者や、何かしら独り言を言いながら不機嫌な表情を浮かべている患者もいます。彼らが、がん患者なのか、それとも隣接した総合病院に入院している別の疾患の患者なのかは分かりませんでしたが、温かい光にあふれ、ポップな色調のマギーズ・センターの前ではそれほど悲壮感は和らいで見えました。

タッフは医療やカウンセリングの専門家以外に、ボランティアの女性が忙しく立ち働いていました。彼女はお茶を沸かしたり、患者さんと雑談をしたりすることが主な仕事であす。ボランティアを目的とし、望んでここにやってきたと話してくれました。患者さんは、家庭的な空間、緑あふれる中庭、オープンキッチンとダイニングルーム、暖炉付きのリビングルーム、個人面談ができる個室などを自由に使うことができます。

 

 

身近な人をがんで亡くした経験を持つ私は、「こんな施設が、日本にもあったらいいなあ」としみじみ思いました。ソファーに座ってゆったりお茶を飲み、不安を語ることで、がん患者の心の重荷が軽くなるかもしれません。

  • クリケットと「がん」
  • 野球の原型と言われるスポーツ
  • インド版『巨人の星』を思い出す
  • ハイテク設備のプレスセンター
  • バットの形は「ヘラ」のよう
  • 「マギーズ・センター」を訪問
  • ポップな色調が悲壮感を和らげ