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『東京発1万円の女子旅』第一回 水辺のむかし町を歩く~水郷佐原の旅投稿日 2013.7.31

旅行者
吉野りり花
旅行先
千葉
旅行期間
2013.07.04~2013.07.04
テーマ
2-2正上と夢時庵
  • 1万円でどんな旅ができるのか?
  • 東京駅から2時間で行ける 江戸優りのまち・佐原
  • まずは成田山新勝寺で成田詣
  • 小野川沿いに広がるしっとりとした昔町
  • 古民家フレンチ夢時庵で水辺のランチ
  • 江戸時代から続く商家でトンボ玉作りを体験
  • 瓦が振り落とされ、護岸が崩れた
  • 日本地図の大家の足跡をたどり、舟下りへ

旅に何を求めるのか、どうして旅をするのか。そんなことを時々考える。わたしはなんで旅に出るんだろう?

はじめて一人旅に出たのは大学生の頃だった。当然のごとく、お金はないが時間はたくさんある。行ってみたいところも見てみたいところもたくさんある。だからバイト代を貯めて長い休みのたびに旅に出た。まず当時はまだ販売されていたJRの周遊券を買い、足を確保。それから格安で泊まれる相部屋のユースホステルの予約だけすませ、出発。あとは予定も決めずにぶらりぶらり。国内のあちこちを2~3週間かけて旅して廻った。いろんな人に出会い、いろんな風景を見た。旅先で知り合った人と一緒に旅をしたりもした。電車の乗り継ぎに失敗して駅のベンチで眠ったりもした。それがどんなに贅沢な時間だったかを、大人になった今は痛感している。忙しく働く大人は二週間の休みなんてまずとれないし、実際には二日休むこともなかなか難しい。

それでもやっぱり私は旅に出たい。ならば短い日数で、限られた予算で、どれだけゆたかに旅ができるのか試してみたい。そう考えて今回の旅を企画した。ルールは“東京発、予算1万円の旅”。10万円はなかなかの大金だ。でも1000円で旅するのはちょっと難しい。ならば1万円でできるだけ贅沢に。日帰りでめいっぱい楽しむのもいい。一泊二日に挑戦するのもいい。そんな旅を試してみたい。それをシリーズ化してみたい。

さあ、1万円で一体どんな旅ができるのか。

さて第一回はどこに行こうか。まず頭に浮かんだのは京都だった。寺社をめぐり、しっとりと落ち着いたまちを歩きたい。だが京都は遠い。新幹線を使えば日帰りも可能だが、予算的に厳しい。京都のようにゆっくりと和の情緒を味わえる場所が他にないだろうか。

倉敷、金沢、飛騨高山、会津若松…。日本情緒たっぷりのまちはいろいろと頭に浮かぶが、やはりどこも遠い。そこで思いついたのが千葉県の佐原。佐原は都心から2時間ほどで着く好立地でありながら、ふるいまちなみが残り、国の重要伝統的建築物群にも指定されるところ。古くは利根川を利用した舟運で栄え、江戸優りと呼ばれるように小江戸の趣を残す日本情緒たっぷりのまちだ。よし、今回の旅の目的地はここにしよう。東京発、1万円で行く佐原の旅。

東京駅から佐原まではJRの快速と普通列車を使って約2時間。距離もあるので朝早くに東京駅から出発。JR成田線に揺られ、30分ほどたつと窓のそとには水田の緑が広がった。鷺だろうか、しなやかな体躯の白い鳥がさっと飛び立つ。電車の中は都心で見慣れた通勤電車と同じなのに、窓から見える景色がどんどん変わっていく。車窓からビルが見えなくなった時、私にとってはそれが旅のはじまりだ。

成田駅に着いたら、いったん途中下車。佐原まではあと30分くらいだが、せっかくここまできたので寄り道して成田詣をしていきたい。初詣の大混雑で知られる成田山新勝寺の開山は平安時代。平将門の乱で世が混乱していた折、朱雀天皇の命を受けはるばる京都からやってきた寛朝大僧正によって開かれた。不動明王を祀り、かの源頼朝や水戸光圀も信仰していたという。

駅から10分ほど歩くと成田山の表参道につく。土産物屋の並ぶ表参道は縁日のような賑やかさ。あちこちからおいしそうな鰻の匂いが漂ってくる。漬物屋や着物屋、それにふるめかしい旅籠を眺めつつ、新勝寺へ。急な階段を登ると広々とした境内には見事な三重塔が。参拝を終え参道に戻ると鰻の香ばしい香りに後ろ髪を引かれるが、昼食は佐原で食べたい。いそいそと成田駅に引き返し、銚子行きの電車に乗って佐原へ。

 

佐原駅に着く。駅前はごくごく普通の地方都市だが、市街地をぬけ10分ほど歩き共栄橋に着くと、そこからの風景はもうしっとりとしたお江戸風情。小野川のほとりには柳がそよぎ、両側に歴史的建造物が建ち並ぶ。木造の建物に格子窓。大正時代のタイル張りの壁や、重厚な蔵。建物を眺めて歩くだけでも面白い。

佐原は商人街として栄えたまち。ふるい建物が代々受け継がれ、今も商店として利用されているものがほとんど。ガラリと戸をあけると、中では香や和紙が売られていたり、ガラス工芸品が売られていたり、食堂であったり。こうやって生活の中で歴史的建造物が使い続けられているのも佐原の特長だという。

佐原地区の歴史的建造物の多くは明治期のものだが、中には江戸時代のものもある。舟運の舟人や行商人が泊まった旅館は、まるで時代劇を見ているかのよう。近年は古民家を再生して利用した古民家レストランや古民家カフェが増えているそうで、そのうちの一軒「夢時庵(むーじゃん)」でランチを食べることにした。

小野川沿いを歩くと、一軒の古民家に「夢」と描かれた藍染の暖簾が風に揺れている。建物は明治34年の建造物だそう。引き戸をあけると、土間にはテーブルが並べられ、天井の高い空間はやわらかい灯りで照らされている。

銚子港直送の魚介類をふんだんに使った2200円のランチコースを注文。サラダは新鮮な野菜がいっぱい、その下にかくれんぼするようにマリネされた魚介類。スモークサーモン、鳥貝、帆立、小鰭など具沢山。スープはハーフパスタにも変更可。それに天然酵母を使ったパンがふっくらとして美味しい。メインの魚料理はこの日はスズキと真鯛のグリルソテー。

 

 

デザートはパンナコッタのキャラメルソースがけ。食後のコーヒーを飲みながら店の外を眺めると、川沿いの柳がさやさやと風にそよいで、情緒満点。店内には意外にも扇風機がまわり、天井からはランプが下がり、茶箪笥などの調度も味わい深い。箸で食事をするお年寄りの方が多いのは古民家フレンチならでは。フレンチといえども決して気取っておらず、居心地のよい空間だ。野菜も魚介類もたっぷりとれて、ゆったりとした時間を満喫できて…なんて幸せなランチ。あぁ、来て良かった!

 

おいしいランチにすでにふにゃふにゃ。うきうき気分で店を出て、川沿いを歩くと夢時庵の隣の正上で「とんぼ玉制作体験」の張り紙を見つけた。正上は江戸時代より醤油の醸造をしていた老舗だという。それにしても、とんぼ玉ってなんだろう。

早速店に入ってみると、店内には色とりどりのガラス工芸品が。見ると、「とんぼ玉」「ほたる玉」と描かれている。「とんぼ玉

 

ってなんですか?」と店の人に聞いてみる。球状のガラスに描かれた模様がトンボの目のように見えるからトンボ玉と呼ばれるのだそう。トンボ玉の歴史は古く、貝塚から出土した例もある。昔は勾玉と同じようにアクセサリーとして使われていたんじゃないかと考えられているらしい。

 

じゃあ、その勾玉ならぬトンボ玉、私も作ってみよう。「やってみます!」と申し出ると、店内の作業台の前に移動。まず大小二本のガラス棒の色を選ぶように言われる。大きい方が地の色になり、小さい方が模様の色になる。たくさんの色があって、どう組み合わせたらよいのかよくわからない。悩みながらも赤系統の同系色を二色選んでみた。次はバーナーでガラス棒をあぶり、溶かしていく。熱せられて真っ赤になったガラスを少しずつ金属棒に巻き付け、球を作っていく。くるくる、くるくる。回すスピードが一定でないと、まるくならない。難しい。

店の人に手伝ってもらいながら、なんとか円く仕上がり、次は模様へ。球に四本の線を入れるようにガラスを付けたら、またくるくる回していく。しばらくして火から離すと、綺麗なマーブル模様に仕上がっていた。不思議。かんざしにしてもらい、お土産にする。

出来上がったトンボ玉は「藁灰」の中で1時間ほどかけてゆっくりと冷やす。急に冷やすとガラスが割れてしまうためだ。出来上がる頃にとりにきてくださいと言われたので、ふたたび佐原のまちなみへ。忠敬橋のほうへ歩く途中、対岸の観光案内所に立ち寄った。

おととしの大震災で佐原の被害は相当のものだったという。小野川の護岸も崩れ、ふるい建物は瓦が振り落とされた。小野川から利根川に注ぐ水門付近は液状化が起こり、舟が土に浮かぶほどにぐしゃぐしゃに壊れてしまった。ようやく護岸や歴史的建造物の修繕は済んだものの、修繕にはかなりの費用がかかった。「あの震災は本当に痛かった…。観光客の客足もまだ震災前ほどには戻っていないように思う」と観光案内所の方は言う。

「こういう地味なまちなみでは、店の前より奥が大事。奥にある土蔵とか小道とか。そういう風情を守っていかないと」そういう気持ちで建物の補修を終えたのが今。この趣深いまちにまた観光客が増え、にぎわいを取り戻して欲しいと思う。色々考えされられつつ、古いまちなみを歩いた。

 それにしても佐原のまちでは建物が生きている。植田屋荒物店では明治初年に建てられた切妻妻入りの土蔵が一般公開され、蔵の中では漆器や反物などが販売されている。その先にはレンガ使いの洋館である三菱館。忠敬橋を挟んだ反対側には井戸のある福新呉服店。ドラマや映画のロケ地として使われることもあるそうだ。まちの人々がふるい建物で普通に暮らしているから、自分まで自然に昔まちに溶け込んだような気持ちになる。

 

 

三菱館近くの佐原町並み交流館で佐原大祭の主役である山車のミニチュアを見学したあたりで、ちょっと足も疲れてきた。三菱館のならびに古民家カフェを見つけ、ふらっと入ってみる。カフェ・ライスフォレスト。

ベーカリーカフェなのか、店頭ではパンも販売されている。店内は元々蔵だったのだろうか、天井の高い広々とした空間。ベーグルサンドセットを注文して、ゆっくりとお茶を飲む。店内を流れる音楽すら耳に優しい。

店を出て桶橋まで歩き、伊能忠敬記念館を見学。日本ではじめて実測によって日本地図を作るという偉業をなしとげた伊能忠敬は九十九里で生まれ、佐原に婿に来たという。家業の合間に天文暦学の勉強を続け、隠居してからも勉強を続け、全国測量の旅に出た。そんなスケールの大きな伊能忠敬の旅を追体験し、集大成である伊能図を眺める。地図なき道を歩く。自分の足で確かめて歩く。その熱意と、彼が成し遂げたことのすごさに圧倒された。

伊能忠敬に比べたら全く大したことないのだが…それでも今日はたくさん歩いた。そして、そろそろ陽も傾いてきた。日が暮れる前に、舟に乗り、舟からまちを眺めてみることにした。30分おきにジャージャーと放水することからジャージャー橋と呼ばれる桶橋のたもとから、小江戸さわら舟めぐりの舟に乗る。

小さな舟に乗り込むと、少ししめった川風が頬をなでていく。涼しくて心地良い。舟が出発すると、絣姿の船頭さんが陽気におしゃべりを聞かせてくれる。「あの建物は鰻屋さん、あの建物は山車がしまってあるのよ~」柳ごしに見る水辺の蔵や商家はしっとりとして風情がある。さっきまで歩き回った小野川沿いの町並も舟から見るとまた違って見える。江戸からやってきた行商人が行き来した水路を、時を経て同じように舟で行く。この川があったからこそ、利根川を使った舟運で佐原が栄え、あのまちなみが出来た。それを感じられるのも舟めぐりならではの楽しさだ。

舟をおり、夕暮れのまちを駅に向かって歩いた。今までお江戸に迷い込んだような感覚でいたのに、すぐに周囲は見慣れたビル街になり、ちょっと残念な気持ちになる。夢から覚めてしまったような、まだ帰りたくないような…。

ふるいまちなみ、水辺の心地よさ、和の情緒、しっとりとした時間。東京から二時間電車に乗れば、佐原では一日かけてじっくりそれを味わえる。歴史も知って、買い物もして、もちろんおいしいものも食べて、静かにお茶を飲んだりもして。お土産にはガラス玉も、お香も、和雑貨もある。美味しいランチと舟下り、トンボ玉体験をして、ゆっくり歩いて。今回の旅、これで〆て一万円。

東京から二時間、予算1万円の旅。日帰りで思う存分和の情緒を味わう旅。こんな1万円の旅はいかがですか?さあ、次回は一万円持ってどこに行こう。

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今回の一万円の旅 おこづかい帳

東京駅から成田駅 JR運賃 1450円

成田駅から佐原駅 JR運賃 480円

夢時庵ランチ 2200円

リバーウェイ正上 とんぼ玉制作体験(かんざし) 1600円

伊能忠敬記念館 入館料 500円

カフェライスフォレスト ベーグルサンドセット 880円

佐原舟めぐり 1200円

佐原駅から東京駅 1620円

合計 9930円

  • 1万円でどんな旅ができるのか?
  • 東京駅から2時間で行ける 江戸優りのまち・佐原
  • まずは成田山新勝寺で成田詣
  • 小野川沿いに広がるしっとりとした昔町
  • 古民家フレンチ夢時庵で水辺のランチ
  • 江戸時代から続く商家でトンボ玉作りを体験
  • 瓦が振り落とされ、護岸が崩れた
  • 日本地図の大家の足跡をたどり、舟下りへ